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高張力鋼とは? 専門商社がわかりやすく解説します。vol.3 ~規格体系と使用の注意点~

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高張力鋼とは? 専門商社がわかりやすく解説します。vol.3 ~規格体系と使用の注意点~

ブログをご覧いただき、ありがとうございます。

最終回の今回は、以下の内容を解説していきます。

目次

  1. 高張力鋼(WEL-TEN)の規格体系
  2. 高張力鋼って扱いが難しいのでは?
  3. まとめ


過去の2記事についてはこちら

vol.1 高張力鋼ってなに?高張力鋼のメリットは?

vol.2 高張力鋼の製造方法、シャルピー衝撃試験


このブログは、特殊鋼のスペシャリストであるクマガイ特殊鋼が、この春入社したばかりの業界ビギナーから百戦錬磨のベテラン社員さん等に向けて、特殊鋼に関する基礎知識はもちろん「なるほど!」と思っていただけるようなまめ知識など、楽しく情報収集をしていただく事を目指したブログです。

※この記事の内容は当社見解であり、すべてを保証するものではありません。製品のご購入や加工などの際は当社を含めた専門業者への確認と目的・用途に応じた検証の上、当該材料をご使用ください。


1.高張力鋼の規格体系

日本製鉄の高張力鋼であるWEL-TEN®︎シリーズでは、55キロ鋼以上を設定しています。

50キロ鋼はすでに汎用的なので含まれていません。

60キロ鋼は58キロではなく60キロなので、WEL-TEN590シリーズになっています。60キロと80キロの中間の70キロ鋼もあります。一覧表にすると下記のようになります。

wel-ten規格 クマガイ

他にも若干ありますが今回は省略いたします。
こうしてみるとかなり多岐にわたっていますね。

特に80キロ鋼にはWEL-TEN780、WEL-TEN780E、WEL-TEN780C、WEL-TEN780EXなど多くの種類があります。

日本製鉄のカタログにはWEL-TEN780がベースとありますが、どちらかというとWEL-TEN780は靭性重視の高級鋼です。Niがかなり添加されています。Niは高価な元素ですが鋼材の靱性を高めるのに有効な元素です。海洋構造物等に適用されています。

WEL-TEN780Eは、建設機械等一般的に使用される汎用的な80キロ鋼になります。

WEL-TEN780CはCrを含有しており、球形タンク用等に開発されたものですが、780Eの板厚上限が60㎜なので、それ以上をカバーする厚手の80キロ鋼としても使われています。

WEL-TEN780EXはCuを含有しており、それによる強度上昇を利用した溶接割れが発生しにくい予熱低減型80キロ鋼になります。


他にも熱延で製造された非調質の80キロ鋼もWEL-TEN780REとして建設機械等に適用されています。


いろいろあって、正確に最適鋼種を選ぶのは難しいですね。わからない場合はクマガイまでお気軽にお問い合わせください。

2.高張力鋼って扱いが難しいのでは?

前に書いたように高張力鋼は靭性値自体は軟鋼より厳しく規制されていますが、他に注意することはあるのでしょうか。


曲げ加工の場合、降伏強さを超えて引張強さに近いところで変形させるため、高張力鋼では余計に力が必要です。これは避けられない現象です。場合によっては熱処理前の柔らかい段階で加工を実施し、加工後熱処理して強度を出すようなことも可能です。

靱性は熱処理して初めて良好になる場合もあるので、この場合は熱処理前の母材が加工に十分耐えられるかどうかも重要です。事前の曲げで割れてしまっては元も子もないですからね。


また降伏強さも高いことから、曲がり始める弾性域が広くなり“スプリングバック”と呼ばれる曲げた形状よりも少し元に戻る現象が大きくなります。

一応、計算でもスプリングバック量の計算はできますが、鋼材間のばらつきもありますので、初期には調整が必要ですね。

加工事例|高張力鋼鈑 ハイテン材 WEL-TEN590 曲げ加工

高張力鋼の溶接

高張力鋼の溶接に関しては改善が進んでいます。

高張力鋼では合金元素が多く含まれるので溶接で割れやすいという懸念がありました。そのために、溶接前に鋼板を温めて(予熱と言います)、溶接後急冷されないようにすることが必要でした。

でも、TMCP鋼では合金元素を削減していますので、その懸念は大幅に改善されました。TMCP鋼以外でもいかに割れやすい成分を減らして割れにくくするかは、鉄鋼メーカーの腕の見せ所でもあるので相談してみてください。

TMCP鋼とは vol.2 高張力鋼はどうやって作られている?


溶接材料についても、母材に合わせて、強度の高いものを選定する必要があります。

普通は母材よりも少し強度的に高いものを用います。溶接部って構造物全体の中では少ないので、その部分が柔らかいとそこに変形が集中して、そこで破壊しちゃいますからね。

溶接部の強度を上げるためにも、溶接金属中の合金成分を高くする必要があるのですが、そうすると“遅れ割れ”というのが発生しやすくなります。

鋼板も溶接金属も合金成分が高くなると溶接前に鋼板を温めてから溶接を開始する予熱が必要になります。

溶接割れの指標としては、炭素当量(Ceq)や溶接割れ感受性指数(Pcm)と呼ばれるものがあります。

鋼材の規格でこれらを規制しているものもあります。溶接部で割れが発生するかどうかは、溶接時に浸入する水素量が大きく影響します。そのため、水素量を制御した溶接材料が各種用意されています。

必要に応じ、日鉄溶接工業(株)などの溶接材料メーカーにお問い合わせください。また、必要な予熱温度が何度くらいになるかは、日本溶接協会のホームページにある、溶接情報センターの「鋼材溶接性計算」というツールで計算できますので、参照ください。



鋼材溶接性計算 一般社団法人 日本溶接協会 溶接情報センター (jwes.or.jp)



焼き入れ焼き戻しで製造した高張力鋼は、部分的に急熱・急冷するような線状加熱では大きな特性変化が少ないように製造されていますが、非適切な処置を行うと軟化したり、靭性低下の懸念はありますので注意が必要です。


また、焼き戻し温度よりも高温に加熱すると軟化が起こってしまう懸念はありますので、熱間加工は不適ですし、温間加工の際も温度に注意が必要です。

加工後または溶接後、内部に残った残留応力を低減するために、応力除去焼鈍(SR)を実施する場合は注意が必要です。特に80キロ鋼以上では、“SR脆化”と呼ばれる靭性低下を招く鋼種がありますので必ず事前に確認、指定することが必要です。


高張力鋼は、強度は高いのですが、たわみは普通鋼と変わりません。

強度が高いから板厚を薄くできるのですが、薄くするとたわむ量は大きくなるので、剛性を得るためには補強材などを工夫する必要があります。

釣り竿のようにしなっても問題の無い用途は、厚板では限られますね。


あと気を付けないといけないのは、疲労強度です。

繰り返し荷重を受ける用途では、ある時点で微小な割れが発生することがあります。微小な割れが発生するとアリの一穴ではないですが、その部分に力が集中して割れが広がっていってしまいます。

高張力鋼自体は軟鋼に比べるとその亀裂が発生する強度は高いのですが、溶接接手部に関しては軟鋼の溶接部と高張力鋼の溶接部で差がほとんどないということが知られています。高張力鋼を使うと部材にかかる強度も高く設計されることが普通で、溶接で内部に残る応力も相まって、この微小な割れが発生しやすくなります。


これを緩和する方法として、日鉄テクノロジー(株)ではUIT(超音波衝撃処理)と呼ぶ溶接接手部の疲労強度を上げる処理装置の販売、レンタルも行っています。

これにより高張力鋼の持つべき本来の疲労性能に近い状態に押し上げることができます。

3.まとめ

このようにいろいろ書き出すと、やはり高張力鋼は軟鋼に比べると扱いにくいと思われる方は多いかとは思いますが、正しい使い方で慣れれば使い勝手の良い鋼材ですので、ぜひお問合せください。


3回に渡って高張力鋼について解説いたしました。

今後も特殊鋼に限らずさまざまな情報発信をしてまいります。

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