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高張力鋼板(ハイテン)のメリット・デメリット|軽量化の秘訣と加工の注意点

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高張力鋼板(ハイテン)のメリット・デメリット|軽量化の秘訣と加工の注意点

「製品を軽量化したいが、強度は落としたくない」という設計の理想を叶えるのが高張力鋼板(ハイテン)です。しかし、一般鋼(SS400)と同じ感覚で扱うと、溶接割れや加工不良といった思わぬトラブルを招くこともあります。本記事では、ハイテン導入のメリットはもちろん、現場で直面しやすいデメリットとその克服法について、専門商社の視点で詳しく解説します。


執筆・監修者
熊谷憧一郎(くまがい しょういちろう)
クマガイ特殊鋼株式会社 代表取締役社長。1977年生まれ、愛知県出身、成蹊大学経済学部卒業。2000年に大手総合商社へ入社し、特殊鋼材の販売に4年間従事。その後、現在の会社に入社し営業・加工技術の実務経験を積み、2013年より現職。


1.ひと目でわかるハイテンのメリット・デメリット

検討初期の方のために、SS400と比較における高張力鋼板の特性をシンプルに整理しました。

項目メリット(利点)デメリット(注意点)
性能面高強度。薄肉化による軽量化が可能。強度が高い分、材料の粘り(靭性)の確保に注意。
加工面薄肉化による取り回し向上、加工工数の低減も見込める。溶接割れやスプリングバックが発生しやすい。
コスト面材料重量の削減により、トータルコストを抑えられる。
さらに製品燃費向上や積載量アップにより製品付加価値が高まる。
材料の単価自体は一般鋼より高い。
加工コストは業者が限定される関係で、価格交渉の余地が狭まる可能性あり。

2.高張力鋼板の規格体系(日本製鉄ブランドWEL-TEN®︎シリーズで解説)

日本製鉄の高張力鋼であるWEL-TEN®︎シリーズでは、55キロ鋼以上を設定しています。

50キロ鋼はすでに汎用的なので含まれていません。

60キロ鋼は58キロではなく60キロなので、WEL-TEN590シリーズになっています。60キロと80キロの中間の70キロ鋼もあります。一覧表にすると下記のようになります。

wel-ten規格 クマガイ

他にも若干ありますが今回は省略いたします。
こうしてみるとかなり多岐にわたっていますね。

特に80キロ鋼にはWEL-TEN780、WEL-TEN780E、WEL-TEN780C、WEL-TEN780EXなど多くの種類があります。

日本製鉄のカタログにはWEL-TEN780がベースとありますが、どちらかというとWEL-TEN780は靭性重視の高級鋼です。Niがかなり添加されています。Niは高価な元素ですが鋼材の靱性を高めるのに有効な元素です。海洋構造物等に適用されています。

WEL-TEN780Eは、建設機械等一般的に使用される汎用的な80キロ鋼になります。

WEL-TEN780CはCrを含有しており、球形タンク用等に開発されたものですが、780Eの板厚上限が60㎜なので、それ以上をカバーする厚手の80キロ鋼としても使われています。

WEL-TEN780EXはCuを含有しており、それによる強度上昇を利用した溶接割れが発生しにくい予熱低減型80キロ鋼になります。


他にも熱延で製造された非調質の80キロ鋼もWEL-TEN780REとして建設機械等に適用されています。


いろいろあって、正確に最適鋼種を選ぶのは難しいですね。わからない場合はクマガイまでお気軽にお問い合わせください。


3.高張力鋼板(ハイテン)導入による「薄肉化・軽量化」のメリット

ハイテンを採用する最大の理由は、やはり「強さを維持したまま板厚を薄くできる」点にあります。

  • 製品の軽量化: 同じ強度を保ちつつ重量を20〜30%削減可能。(規格選定で更なる改善も見込まれる)
  • 燃費・積載量の改善: 車両や建機の自重を減らし、運搬効率を劇的に向上。
  • 環境対応: 材料使用量の削減により、製造・輸送時のCO2排出を抑制。

SS400(40キロ鋼)とWEL-TEN780等(80キロ鋼)では『引張強さ』は約2倍ですが、『降伏強さ』でいうと3倍近くなります。

当然ながら強度が高いので、板厚を薄くすることができます。
板厚を薄くすると軽くなり上記のような大きなメリットをえられます。

また、板厚が薄くなると、軽量化以外にも溶接加工時に、溶接量が減らせるメリットがあります。

100㎜の板どうしを溶接するのと、50㎜どうしを溶接でつなぐのでは手間を約半分にすることができます。


4.現場で注意すべき高張力鋼板のデメリット(加工の課題)

前に書いたように高張力鋼は靭性値自体は軟鋼より厳しく規制されていますが、他に注意することはあるのでしょうか。

4-1.曲げ加工について

曲げ加工の場合、降伏強さを超えて引張強さに近いところで変形させるため、高張力鋼では余計に力が必要です。これは避けられない現象です。場合によっては熱処理前の柔らかい段階で加工を実施し、加工後熱処理して強度を出すようなことも可能です。

靱性は熱処理して初めて良好になる場合もあるので、この場合は熱処理前の母材が加工に十分耐えられるかどうかも重要です。事前の曲げで割れてしまっては元も子もないですからね。


また降伏強さも高いことから、曲がり始める弾性域が広くなり“スプリングバック”と呼ばれる曲げた形状よりも少し元に戻る現象が大きくなります。

一応、計算でもスプリングバック量の計算はできますが、鋼材間のばらつきもありますので、初期には調整が必要ですね。

加工事例|高張力鋼鈑 ハイテン材 WEL-TEN590 曲げ加工

4-2.高張力鋼の溶接

高張力鋼の溶接に関しては改善が進んでいます。

高張力鋼では合金元素が多く含まれるので溶接で割れやすいという懸念がありました。そのために、溶接前に鋼板を温めて(予熱と言います)、溶接後急冷されないようにすることが必要でした。

でも、TMCP鋼では合金元素を削減していますので、その懸念は大幅に改善されました。TMCP鋼以外でもいかに割れやすい成分を減らして割れにくくするかは、鉄鋼メーカーの腕の見せ所でもあるので相談してみてください。

TMCP鋼とは vol.2 高張力鋼はどうやって作られている?


溶接材料についても、母材に合わせて、強度の高いものを選定する必要があります。

普通は母材よりも少し強度的に高いものを用います。溶接部って構造物全体の中では少ないので、その部分が柔らかいとそこに変形が集中して、そこで破壊しちゃいますからね。

溶接部の強度を上げるためにも、溶接金属中の合金成分を高くする必要があるのですが、そうすると“遅れ割れ”というのが発生しやすくなります。

鋼板も溶接金属も合金成分が高くなると溶接前に鋼板を温めてから溶接を開始する予熱が必要になります。

溶接割れの指標としては、炭素当量(Ceq)や溶接割れ感受性指数(Pcm)と呼ばれるものがあります。

鋼材の規格でこれらを規制しているものもあります。溶接部で割れが発生するかどうかは、溶接時に浸入する水素量が大きく影響します。そのため、水素量を制御した溶接材料が各種用意されています。

必要に応じ、日鉄溶接工業(株)などの溶接材料メーカーにお問い合わせください。また、必要な予熱温度が何度くらいになるかは、日本溶接協会のホームページにある、溶接情報センターの「鋼材溶接性計算」というツールで計算できますので、参照ください。



鋼材溶接性計算 一般社団法人 日本溶接協会 溶接情報センター (jwes.or.jp)



焼き入れ焼き戻しで製造した高張力鋼は、部分的に急熱・急冷するような線状加熱では大きな特性変化が少ないように製造されていますが、非適切な処置を行うと軟化したり、靭性低下の懸念はありますので注意が必要です。


また、焼き戻し温度よりも高温に加熱すると軟化が起こってしまう懸念はありますので、熱間加工は不適ですし、温間加工の際も温度に注意が必要です。

加工後または溶接後、内部に残った残留応力を低減するために、応力除去焼鈍(SR)を実施する場合は注意が必要です。特に80キロ鋼以上では、“SR脆化”と呼ばれる靭性低下を招く鋼種がありますので必ず事前に確認、指定することが必要です。


4-3.剛性について(たわみは変わらない)

高張力鋼は、強度は高いのですが、たわみは普通鋼と変わりません。

強度が高いから板厚を薄くできるのですが、薄くするとたわむ量は大きくなるので、剛性を得るためには補強材などを工夫する必要があります。

釣り竿のようにしなっても問題の無い用途は、厚板では限られますね。


4-4.疲労強度について

あと気を付けないといけないのは、疲労強度です。

繰り返し荷重を受ける用途では、ある時点で微小な割れが発生することがあります。微小な割れが発生するとアリの一穴ではないですが、その部分に力が集中して割れが広がっていってしまいます。

高張力鋼自体は軟鋼に比べるとその亀裂が発生する強度は高いのですが、溶接接手部に関しては軟鋼の溶接部と高張力鋼の溶接部で差がほとんどないということが知られています。高張力鋼を使うと部材にかかる強度も高く設計されることが普通で、溶接で内部に残る応力も相まって、この微小な割れが発生しやすくなります。


これを緩和する方法として、日鉄テクノロジー(株)ではUIT(超音波衝撃処理)と呼ぶ溶接接手部の疲労強度を上げる処理装置の販売、レンタルも行っています。

これにより高張力鋼の持つべき本来の疲労性能に近い状態に押し上げることができます。


5.【プロの視点】デメリットを克服する「材料選定」のコツ

「加工が難しい」というデメリットは、実は材料の選び方ひとつで解決できる場合があります。

【溶接性を重視するなら】

化学成分を調整し、予熱なしでも割れにくい「TMCP型ハイテン」を選択する。また溶接部の疲労強度を考慮し、必要な処理を加えることを検討する。

【素材自体の品質を求めるなら】

JIS規格よりも品質のバラツキが少ないメーカーブランド鋼(WEL-TEN、JFE-HITEN等)を採用し、加工条件を安定させる。

【剛性はかわらない】

強度があがっても剛性はSS400(普通鋼)と比較しても同じです。部品設計では「たわみ」はSS400と同レベルであるという認識を持った上で、規格&板厚を選定する。

クマガイ特殊鋼では、お客様の設備環境や加工方法をヒアリングし、最もトラブルが起きにくい最適な鋼種をご提案しています。


6.高張力鋼板(ハイテン)の加工に関するFAQ

Q1:SS400用のベンダー(曲げ機)でハイテンを曲げられますか?

A1:可能です。ただし、板厚や強度に応じてSS400の数倍の圧力が必要になる場合があります。機械の能力不足は精度不良や故障の原因となるため、事前の検討が不可欠です。


Q2:溶接後の割れを防ぐ一番の対策は何ですか?

A2:鋼材に応じた適切な「予熱」が基本です。もし予熱工程を短縮したい場合は、溶接性に優れたブランド鋼への切り替えをご提案いたします。


不安が解消したら高張力鋼板(ハイテン)とは?特徴・用途・SS400との違いをプロが解説【在庫・加工対応】」をおさらいして問い合わせよう


7.まとめ|メリットを最大化するために

高張力鋼板(ハイテン)は、正しく選定し、正しく加工することで、製品の競争力を高めてくれる有益な材料です。

「自社の設備で加工できるか不安」「どのグレードが最適かわからない」といったお悩みは、特殊鋼のプロであるクマガイ特殊鋼へご相談ください。創業100年超の知見と、主要ブランドの豊富な在庫、そして高精度な切り板加工で、お客様の課題解決をサポートします。

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