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高張力鋼とは? 専門商社がわかりやすく解説します。vol.2

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高張力鋼とは? 専門商社がわかりやすく解説します。vol.2

前回までは、高張力鋼ってなに?高張力鋼のメリットは?という内容をご紹介しましたが、今回は以下のような内容を解説していきます。

vol.1のブログはこちら

目次

  1. 高張力鋼はどうやって作られている?
  2. TMCP鋼と調質鋼材
  3. シャルピー衝撃試験
  4. まとめ

このブログは、特殊鋼のスペシャリストであるクマガイ特殊鋼が、この春入社したばかりの業界ビギナーから百戦錬磨のベテラン社員さん等に向けて、特殊鋼に関する基礎知識はもちろん「なるほど!」と思っていただけるようなまめ知識など、楽しく情報収集をしていただく事を目指したブログです。

※この記事の内容は当社見解であり、すべてを保証するものではありません。製品のご購入や加工などの際は当社を含めた専門業者への確認と目的・用途に応じた検証の上、当該材料をご使用ください。


1.高張力鋼はどうやって作られている?

さて、高張力鋼ってどうやって作っているのでしょうか。


厚板は、スラブと呼ばれる半製品を加熱、圧延して作ります。軟鋼の40キロ鋼は圧延ままで製造するのですが、高張力鋼の50キロ鋼では、

  • ①さらにマンガンなどの合金元素を高めて強度を上げる
  • ②圧延温度を下げたり圧延直後水冷することなどで強度を上げる

といった製造方法があります。

2.TMCP鋼と調質鋼

上記②の方法で作られる鋼材をTMCP鋼と呼びます。

TMCP鋼

“Thermo-Mechanical Control Process”の略で成分調整に加え、加熱温度、圧延温度を制御し、さらに圧延後そのままオンラインで水冷を実施する場合が多いです。日本語では熱加工制御なんて言います。

造船用の50キロクラスは、もう40年ほど前からこの方法が採用されています。これにより、合金元素を減らせるので、溶接性が大幅に改善されました。JISにある溶接構造用鋼のSM490クラスでも、最近はTMCPでの製造がメインになってきています。

TMCP鋼のイメージ

調質鋼

60キロ鋼以上の高張力鋼になると、古くは鋼板に焼入れ焼戻し(Quench and Temper:QT)という熱処理を施して作っていました。鉄は急冷すると硬くなる性質を利用しているのですね。
80キロ鋼以上は今でも焼入れ焼戻しが主流です。

焼入れ焼戻しで製造する鋼材を調質鋼と言います。


熱処理で強度、靭性などの性質を調整するという意味合いでしょうか。


焼入れというと、鉄を加熱して水の中にジューっと漬けるイメージがあると思いますが、大量の熱処理を実施する必要がある鉄鋼メーカーでは製造量が限られてしまいます。そのため熱処理炉で900℃くらいに熱した後、上下から強力なスプレーで水を吹きかけて冷却するイメージになります。

調質鋼のイメージ

水の中に漬けるよりも新しい冷たい水がどんどん高圧で供給されるので、冷却速度はむしろ早くなります。
熱処理炉内を移動させて徐々に温度を上げていって、その先のライン上で鋼板を移動させながら水冷ゾーンを通過させるので効率的に処理できます。

黒皮(酸化スケール)

ついでに熱処理材の表面性状についてお話しします。

多くの場合、熱処理前にショットブラストを使用して、圧延で発生する表面の“黒皮”と呼ばれる酸化スケールを除去します。

また熱処理炉内では酸素を減らして(実際には窒素を充填させて)、表面の酸化物(スケール)をできにくくするようなこともしています。

理由はいろいろあるのですが、水冷時に表面の均一性を保ちムラをなくすことも一つです。このため、熱処理材の表面性状としては黒皮が薄くて均一になる傾向があります。

黒皮イメージ

最近では、60キロ鋼以上でも圧延温度のコントロールで作り込む方法や、さらに圧延直後にライン上で水冷することによって、焼入れ効果を得る方法も取られています。

これらは熱処理をしていないという意味合いで非調質鋼と呼んだり、50キロ鋼と同じようにTMCP鋼と呼ぶこともあります。
成分と圧延で作り込む60キロ鋼を、日本製鉄では“WEL-TEN590RE”と呼んでいます。


硬さ制御の難しさ

最近、自動車関連の薄板の高張力鋼化も進んでいますが、高張力鋼化は厚板で先行して進んでいました。

厚板での高張力鋼化の難しさの一つに、板厚方向の偏差の制御があります。

例えば、100㎜の板厚の鋼板を水冷した際、表裏面はものの数秒で冷えるのに板厚の真ん中の方は数分かかってしまう。
そうすると、板の表面と内部で硬くなり方が全然違っちゃうんです。

でも成分をうまく調整すれば、冷え方がこんなに違っても近い硬さに制御できたりもするんですね。

焼入れ性指数と呼ばれる指標があるのですが、冷却速度が遅くても硬くできる方法があるのです。クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、ニッケル(Ni)などは焼きが入りやすくなる元素です。

また、ボロン(B)と呼ばれる元素を鋼材の中にわずか0.001%添加するだけで効果が出たりするんです。鉄って不思議ですね。

3.シャルピー衝撃試験

引張試験と並んで重要なのがシャルピー衝撃試験です。

簡単に言うと“鋼材がもろくて破壊しやすいかどうか”を判定しています。

ガラスは硬いのですが、衝撃には弱く石をぶつけると割れちゃいますよね。


鋼材も温度が低くなるともろくなり衝撃で割れやすくなります。
衝撃を与えたときに、真夏の沖縄では割れなくても、真冬の北海道では割れてしまうこともあり得るのです。

このため、引張試験とともに鋼材の割れにくさを規定するために、一部の鋼材の規格にシャルピー衝撃試験が規定されています。

衝撃を与えたときにパリンと割れてしまうと少しのエネルギーしか必要ありませんが、粘り強い材料は割るのに大きなエネルギーを必要とします。強化ガラスはこんなイメージでしょうか。

破壊しにくい鋼材を“靭性がいい鋼材”などと言います。

ある条件でのこの割れるエネルギーを規定していて、低い温度でエネルギーが高いほど靭性がいいということになります。


SM490BというJIS鋼材では、0℃で試験して27J(ジュール)以上

SM490Cでは、47J以上

が規定されています。

SM490Cの方が靭性上も上位になります。


27J、47Jという数値自体は過去の破壊事例による経験則から決められた数値だと思います。寒冷地向けではもっと低い温度での試験を指定することもできます。


ところで、SM570では-5℃での試験で47J以上が規定されています。60キロ鋼は低温で使うというわけではないのに、なぜ、-5℃と変えているのでしょうか。

そもそも強度と靭性の関係は強度が上がるともろくなって靭性が下がるというのが一般的なのに逆に高い靭性を要求していますね。JISのSHY685や日本製鉄の80キロ鋼であるWEL-TEN780シリーズでは-20℃での試験を実施しています。

板厚が厚くなるとより低い温度での試験を実施することもあります。高強度鋼を使うと鋼材にかかる力も大きくなり、板厚が厚いとより拘束が大きくなる(力の分散がしにくい)ので、より靱性を改善しておくことが必要になってくるんですね。

試験温度吸収エネルギー
SM490B0℃27J
SM490C0℃47J
SM570 WEL-TEN590E-5℃47J
SHY685 WEL-TEN780-20℃(-15℃*1)47J
WEL-TEN95025℃(-20℃*2)47J

*1:780E *2:950E

まとめ

いかがでしたでしょうか。

TMCP鋼や調質鋼という性能に応じた製造方法があることやシャルピー衝撃試験など、高張力鋼の基本を理解するためのより詳しい情報をご紹介いたしました。


次回は、規格体系やその解説、加工や溶接時に注意すべき点など、実際の利用時に役立つ情報をお届けできればと考えております。

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