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磁石につかない鋼材の選び方|高マンガン鋼とSUS304・SUS316を徹底比較

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磁石につかない鋼材の選び方|高マンガン鋼とSUS304・SUS316を徹底比較

MRI、磁選機、半導体装置などで使用される磁石につかない鋼材(非磁性鋼)について解説。高マンガン鋼とSUS304・SUS316の違い、磁性の発生原因、用途別の選び方を実務目線で整理しています。


執筆・監修者
熊谷憧一郎(くまがい しょういちろう)
クマガイ特殊鋼株式会社 代表取締役社長。1977年生まれ、愛知県出身、成蹊大学経済学部卒業。2000年に大手総合商社へ入社し、ステンレス鋼材の販売に4年間従事。その後、現在の会社に入社し営業・加工技術の実務経験を積み、2013年より現職。特殊鋼販売技師の資格を有し、特殊鋼材の販売・加工に一貫して携わる。


はじめに

MRI、リニアモーターカー、半導体製造装置など、強い磁場環境で使用される機器では「非磁性鋼」が欠かせません。しかし一口に非磁性鋼といっても種類は多く、特性も大きく異なります。特に実務で比較されやすいのが「高マンガン鋼(ハイマンガン鋼、高Mn鋼)」と「オーステナイト系ステンレス」です。
どちらも“磁石につきにくい”という共通点を持ちながら、強度、耐食性、加工性、コストなどの設計思想はまったく異なります。本記事では、非磁性鋼の基本から、高マンガン鋼とオーステナイトステンレスの違い、用途に応じた選び方までを技術的に整理して解説します。

1.磁石につかない鋼材(非磁性鋼)とは?なぜ磁石につかないのか

鉄鋼材料は一般に磁石につくイメージがありますが、実際には「鉄を主成分としながら磁化しにくい鋼」が存在します。これが非磁性鋼です。
非磁性鋼とは磁石に引き付けられない、あるいはほとんど磁化しない鋼の総称です。
磁性の有無は化学成分だけでなく、内部の金属組織に大きく依存します。鉄鋼の代表的な組織には以下があります。

  • フェライト組織(強磁性)
  • マルテンサイト組織(強磁性)
  • オーステナイト組織(非磁性)

一般の鋼はほとんどがフェライト組織であり、磁石につきます。
一方、高マンガン鋼や多くのステンレスはオーステナイト組織を持つため非磁性です。オーステナイトを常温で安定化させるにはNi(ニッケル)やMn(マンガン)を多く添加します。
ただし、実際の材料では加工や溶接によって一部がマルテンサイト化し、磁性が発生することがあります。したがって「完全非磁性」と「実用上の非磁性」は区別して考える必要があります。


2.高マンガン鋼とは?特徴と用途

高マンガン鋼はMnを11%以上含有し、オーステナイト組織を安定化させた非磁性鋼です。高マンガン鋼にはMnを13%程度含有したものと、24%程度含有したものがあります。後者は極低温での靭性が良好な特性を利用してLNG関連施設に使われた例はありますが、一般には流通していないので、ここでは、NM-13MNやSCMnHなどの規格名の13%Mn鋼を対象にします。

2-1.高マンガン鋼の特徴

高マンガン鋼の最大の特徴は、非磁性でありながら高強度・高靭性・高耐摩耗性を兼ね備える点です。特に加工硬化性が強く、衝撃や塑性変形を受けると表面が急激に硬化し、摩耗に非常に強くなります。
主な特徴は以下の通りです:

  • 非磁性(加工後も非磁性を維持)
  • 高強度・高靭性
  • 優れた耐摩耗性(加工硬化)
  • 衝撃荷重に強い

一方で、加工硬化が強いことは切削加工の難しさにもつながります。切削中に表面が硬化しやすく、工具摩耗が大きくなるためです。また、ステンレスのような高い耐食性はなく、防錆処理が必要です。

2-2.主な用途

  • 磁選機
  • ショットブラスト装置
  • リニアモーターカー部材
  • MRI周辺機器
  • 破砕機ライナー
  • 鉄道分岐器
  • 建設機械の摩耗部材

「非磁性」と「高強度・耐摩耗性」を同時に求める用途で採用されます。

高マンガン鋼については、下記リンクにも記載していますので参考にしてください。


3.オーステナイトステンレスとは?SUS304・SUS316を中心に

オーステナイト系ステンレスはCr(クロム)とNi(ニッケル)を多く含み、耐食性と非磁性を両立したステンレス鋼です。代表的な鋼種は以下です。

  • SUS304
  • SUS316

3-1.非磁性の理由

Niを添加することでオーステナイト相(FCC構造)が安定し、非磁性となります。

3-2.オーステナイトステンレスでも磁性が出る理由

SUS304でも加工後に磁石につくことがあります。
これは冷間加工によって加工誘起変態を起こし、一部がマルテンサイト化するためです。

  • 曲げ加工
  • 深絞り
  • 切削加工

などを行うと、局所的に磁性が発生します。
これは加工しても非磁性を維持する(すなわちマルテンサイト化しない)高マンガン鋼との大きな違いです。

3-3.オーステナイトステンレスの特徴

  • 非磁性(加工で磁性が出る場合あり)
  • 非常に高い耐食性
  • 良好な加工性・溶接性
  • 清潔性・美観性

食品設備、化学プラント、医療機器など幅広い用途で使用されます。

SUS304については、下記リンクでも紹介していますので参考にしてください。


4.高マンガン鋼とオーステナイトステンレスの違い

【材料思想の違いを押さえると理解が早い】

両者は同じ「非磁性鋼」ですが、設計思想はまったく異なります。

  • 高マンガン鋼:強度・靭性・耐摩耗性を最大化するための非磁性鋼
  • ステンレス:耐食性・加工性・汎用性を最大化するための非磁性鋼

この違いを軸に比較すると、材料選定が非常にスムーズになります。


5.4つの観点で比較

5-1.非磁性の安定性

  • 高マンガン鋼:◎ 加工後も非磁性を維持
  • ステンレス:△ 冷間加工で磁性が出ることがある

MRIや磁選機などではこの差が重要です。

5-2.強度・靭性・耐摩耗性

  • 高マンガン鋼:◎ 圧倒的に高い。加工硬化で耐摩耗性も非常に高い
  • ステンレス:○ 中程度。摩耗用途には不向き

5-3.耐食性

  • 高マンガン鋼:△ 一般的。防錆処理が必要
  • ステンレス:◎ 非常に高い(特にSUS316)

5-4.加工性・溶接性

  • 高マンガン鋼:△ 切削は難しい。溶接も注意が必要
  • ステンレス:○ 比較的良好で扱いやすい

6.用途別の使い分け

6-1.高マンガン鋼が向くケース

  • 強度・衝撃荷重が大きい
  • 摩耗が激しい
  • 曲げ加工して使われる
  • 強磁場環境で高強度が求められる
  • 破砕刃、ライナー、衝撃を受ける大型部材、磁選機、ショットブラスト装置

6-2.オーステナイトステンレスが向くケース

  • 腐食環境(海水、薬品、湿気)
  • 衛生性が重要(食品・医療)
  • 一般的な加工・溶接構造物
  • 美観が求められる設備
  • 医療器具、食品接触部、海洋装置、化学プロセス配管

7.簡易比較表

観点高マンガン鋼オーステナイトステンレス
非磁性の安定性◎(加工後も非磁性)△(加工で磁性が出る)
強度・靭性非常に高い〇 中程度
耐摩耗性非常に高い一般的
耐食性一般的(防錆処理必要)〇 非常に高い
加工性・溶接性やや難しい〇 比較的良好
コスト材料費・加工とも比較的高い材料費・加工とも比較的高い
主な用途摩耗・衝撃・強磁場腐食・衛生・汎用
高マンガン鋼は『非磁性性能+高強度・耐摩耗性』を重視する用途に適し、オーステナイト系ステンレスは『非磁性性能+耐食性』を重視する用途に適しています。

8.まとめ|非磁性鋼は「何を優先するか」で選ぶ

非磁性鋼は「磁石につかないかどうか」だけで選ぶと失敗します。 重要なのは、非磁性以外に何を優先する材料なのかです。

  • 強度・靭性・耐摩耗性 → 高マンガン鋼
  • 耐食性・加工性・衛生性 → オーステナイトステンレス

両者は同じ非磁性鋼でも、得意分野は大きく異なります。 使用環境(磁場、腐食、衝撃、摩耗、加工性)を総合的に判断し、最適な材料を選定することが重要です。


9.磁石につかない鋼材(非磁性鋼)に関するよくあるご質問(FAQ)

Q1.SUS304は完全非磁性ですか?
A. 完全非磁性ではありません。冷間加工によって磁性が発生することがあります。


Q2.高マンガン鋼は加工できますか?
A.曲げ加工も機械加工も可能ですが、加工硬化が大きいので、ノウハウは必要です。


Q3.高マンガン鋼は錆びますか?
A.ステンレス鋼のような耐食性はありません。基本的に防錆対策が必要です。


Q4.非磁性鋼はなぜ高価なのですか?
A.NiやMnなどの合金元素を多く使用するため、一般炭素鋼より材料コストが高くなる傾向があります。


Q5.MRIで使用されるのはどちらですか?
A.用途によります。耐食性重視ならオーステナイトステンレス、高強度重視なら高マンガン鋼が選ばれることがあります。


Q6.磁石につかない金属にはどんな種類がありますか?

A. 鋼材では高マンガン鋼やオーステナイト系ステンレスが代表例です。その他、アルミニウムや銅、チタンなども磁石につきません。


Q7.SUS304が磁石につくのは不良ですか?

A. 不良ではありません。冷間加工によって一部がマルテンサイト化し、磁性が発生することがあります。


最後に

クマガイ特殊鋼では、高マンガン鋼をはじめとする各種特殊鋼やステンレス鋼を取り扱い、用途条件や使用環境に応じた材料選定のお手伝いを行っています。

「高マンガン鋼とSUS304ではどちらが適しているのか?」

「加工後も非磁性を維持したいが、どの材料を選ぶべきか?」

「強度・耐摩耗性・耐食性を踏まえて最適な材料を提案してほしい」

といったご相談も歓迎しております。

図面検討段階や仕様検討の初期段階からでも構いませんので、非磁性材料の選定や加工に関するお悩みがありましたら、お気軽にクマガイ特殊鋼までお問い合わせください。

【高マンガン鋼・ステンレス鋼の材料手配から切断・機械加工まで一貫して対応しております。】

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