耐候性鋼板 COR-TEN®︎とは?特徴・仕組み・設計時の注意点を解説
- 特殊鋼コラム
- COR-TEN

目次
このブログは特殊鋼のスペシャリストであるクマガイ特殊鋼が、業界ビギナーから百戦錬磨のベテラン社員さん等に向けて、特殊鋼に関する基礎知識はもちろん「なるほど!」と思っていただけるようなまめ知識など、楽しく情報収集していただけるブログを不定期で更新しております。
※この記事の内容は当社見解でありすべてを保証するものではありません。製品のご購入や加工などの際は当社を含めた専門業者への確認と目的・用途に応じた検証の上、当該材料をご使用ください。
執筆・監修者
熊谷憧一郎(くまがい しょういちろう)
クマガイ特殊鋼株式会社 代表取締役社長。1977年生まれ、愛知県出身、成蹊大学経済学部卒業。2000年に大手総合商社へ入社し、特殊鋼材の販売に4年間従事。その後、現在の会社に入社し営業・加工技術の実務経験を積み、2013年より現職。特殊鋼販売技師の資格を有し、会社代表として特殊鋼販売技師や加工技師などのプロ社員集団を束ねる。
1.【結論】耐候性鋼板とは「さびで内部腐食を防ぐ鋼材」
耐候性鋼板(COR-TEN®)とは、表面に発生する「さび」を利用して内部の腐食進行を抑制する鋼材です。
通常、鋼材はさびることが弱点ですが、耐候性鋼板は合金成分の働きにより、緻密で密着性のある保護性さびを形成し、内部まで腐食が進みにくい構造になっています。
屋外の大気中環境において、塗装を施さずに長期使用できることが大きな特徴です。
1-1.さびという弱点
鋼材の弱点はさびるということです。これは、もともと地球上に安定に存在する鉄の酸化物(鉄鉱石)を還元という方法で無理やり金属鉄にしているため、もとの安定な酸化物に戻ろうとする現象です。さびるのは鉄の弱点なので、普通は表面に塗装したり、メッキしたりしてさびないようにしているのです。
ところが耐候性鋼はこのさびを利用して、表面はさびるけれども内部までのさびの進行を抑えている特別な鋼材です。
耐候性鋼は、気候に耐える鋼材ということです。屋外の大気中使用に対して効果を発揮します。
2.COR-TEN®︎とは
「COR-TEN」は米国のUS Steel社(以降USSと表記)が開発した高張力耐食鋼の名称です。1920年代に各種成分が検討され、1930年代に製品化がなされました。同じころ日本でもUSS社により商標登録されています。
Corrosion Resistance and Tensile strengthから来たものだと思います。
「コルテン」というカタカナ表記も1980年代に商標登録されています。「コールテン」と呼ばれることもあります。USSは世界主要各国に特許および商標の使用許諾を行い、日本では1960年ころ富士製鉄(現 日本製鉄)が実施権者(ライセンシー)となりました。それ以降、国内では日本製鉄が製造販売しています。
COR-TENは世界共通のブランド名となっています。HPを見る限りでは、USS自体はすでにCOR-TENの製造は行っていないようです。一方で、日本では60年以上が経過しましたが、大量の製造実績と改善により今でも売れ続けています。
COR-TENは各種耐食鋼としての用途もありますが、基本は耐候性鋼として使用されます。
耐食性とともに高張力も高いものになっています。販売開始からもう90年くらい経っています。成分の特許は切れていますが、商標は現在も生きています。特許は日本では20年で切れるのですが、商標は更新すれば永遠なのです。
3.耐候性鋼板のしくみ|なぜさびで守れるのか
耐候性鋼は鋼中に、リン(P)、銅(Cu)、クロム(Cr)、ニッケル(Ni)などの合金を微量添加することによって、表面にできるさびが緻密で密着性のあるものになるため、水や空気の浸透を抑制し、内部のさびの進行が抑えられるのです。さびが塗装の代わりをしているようなイメージです。
この保護性のある緻密なさびは一朝一夕でできるものではなく、雨などで濡れたり乾いたりを何度も繰り返すうちに、数年かけてできていくものです。
初期のさびは一般の鋼材と差は見られません。また、健全な保護性のさびも完全に水を遮断するものではないので、さびの進行がゼロになるわけではありませんが、構造物の寿命に対し無視できるレベルになります。
一方、海岸に近い地域では一般の鋼材でも腐食が激しいのと同じように、耐候性鋼も塩分の高い地域では保護性のさびができにくいため、COR-TENの使用にも制約があります。この点に関しては後述いたします。
なお、さびにくい鋼材としてステンレスがあります。これは合金としてCrを11%以上含むもので、COR-TENのような低合金鋼とは異なる分類の耐食鋼になります。

4.耐候性鋼板のメリット
4-1.塗装不要による維持管理コストの低減
塗装鋼材は施工に下地処理や塗装(上塗り中塗り)など塗装に関わるコストが発生します。また10~15年周期で再塗装のメンテナンスが発生する可能性があり、その都度コストが発生します。
耐候性鋼は無塗装で使用できます。初期塗装費用および将来的な再塗装費用を削減できる可能性があります。
4-2.意匠性・経年変化
耐候性鋼も初期さびは一般鋼と同じように黄さびになります。1日でさびが発生することもあります。何年もかけて濡れたり乾いたりを繰り返すうちに、だんだん濃くなっていき、茶色からさらに重厚なこげ茶色に変化していきます(日本製鉄 COR-TEN®カタログ参照ください)。
ご自宅用の活用事例(クマガイブログより)

黄さびのうちは、まだらになる場合もあってきれいとは言えないのですが、だんだん落ち着いた濃い茶色に変化していきます。
山の中などにある橋梁では植物の緑とのコントラストが自然にマッチしているように感じるのはひいき目でしょうか。
余談ですが、耐候性鋼の橋と隣接した塗装された鋼橋では、耐候性の橋の方にだけ鳥が巣を作っているのを見たことがあります。鳥も人工的な化学物質である塗料よりも自然界に存在するさびの方に親しみを持つのかもしれません。塗装しないことからも、エコでCO2の削減にも寄与できている鋼材とも言えます。
COR-TEN鋼は多くの芸術家、建築家の方にも愛されており、多様な建築物(例えば写真1)、モニュメント、作品が作られています。COR-TEN鋼を扱ったことのある人は、その魅力に取りつかれることが多いように思います。

4-3.環境負荷の低減
一般鋼材な鋼材では、塗装施工に下地処理や塗装(上塗り中塗り)などの工程が必要で、塗料製造、有機溶剤の使用、電力使用などでCO2排出や様々な環境負荷が発生します。
耐候性鋼板を無塗装で採用することで、これらの工程を削減または大幅に低減できる可能性があり、環境負荷低減に貢献できます。
また、ライフサイクルでみる環境メリットの観点も大切です。耐候性鋼板の環境性は、初期施工時だけではなく、長期維持管理段階で顕在化します。
塗装鋼材では、10年〜15年程度で再塗装が必要となるケースがあります。そのたびに塗料の製造、足場などの設置、施工時のエネルギー消費で環境負荷が発生します。
耐候性鋼板はこれらの頻度を低減できる可能性があり、結果としてライフサイクル全体での環境負荷低減につながります。
5.デメリットと使用制限(設計・納まりで回避できるリスク)
5-1.塩害地域では使用制限あり
耐候性鋼板は先に述べたとおり乾燥と湿潤の繰り返しによって「保護さびの層」をつくり内部の腐食を抑えています。
ただし、塩害地域の使用は要注意です。海岸沿いや塩害が想定される地域では空気中の塩分濃度が通常より高くなります。そうすると耐候性鋼板の「保護さび層」が形成されづらく、腐食が進む可能性が高くなります。実際の製鉄メーカーの曝露試験で同様の結果が報告されています。
よって海岸沿いなど空気中の塩分濃度が高いと想定される地域では、耐候性鋼を無塗装で外装材として使用するには適しません。塩分の影響を軽減するための表面処理や塗装との併用が必要な場合があります。場合によっては別の鋼材の採用をご検討ください。
5-2.水が滞留する場合は腐食が進む
度々ご説明通り、耐候性鋼板は乾燥と湿潤の繰り返しによって「保護さび層」をつくり腐食を抑えます。そのため、常に湿潤されている環境では保護さび層はつくられません。水が溜まるような形状での使用環境では腐食が進みます。
5-3.初期外観:さび汁・色むら(まだら)への配慮
保護さび層がつくられ、安定さびとなるまでは「さび汁」が発生し、周囲に付着する場合があります。
水に濡れるとすぐに初期さびが発生します。この初期さびの状況は一般鋼と同じで黄色くまだらになりやすく、あまりきれいとは言えない場合があります。また、保護性のさびができるまでに、流れさびと言われるさび汁によって周囲にさび色がついてしまうこともあります。
安定さびがつくられるまでの期間は、上記のように「さび汁」が発生すると同時に、さびの進行度合いにより表面がまだらになる可能性があります。安定したさびが作られるまではさび色に色むらや濃淡がでることを考慮にいれてください。
6.COR-TEN®︎鋼の錆の色と経年変化
初期は一般鋼と同様に黄さびが発生します。数年かけて茶色から重厚な濃茶色へと変化していきます。

この経年変化が意匠材料として高く評価され、建築物やモニュメントに多く採用されています。
7.耐候性鋼板の使い方(無塗装・表面処理)
耐候性鋼板は無塗装でも使用が可能です。
7-1.ショットブラスト等での黒皮除去
耐候性鋼は長期にわたって乾湿を繰り返すことによって、きれいなさび色に変化させていくことを前提にしていることもあって、初期にはショットブラストなどにより表面の黒皮を剥がしてしまうことが一般的です。
熱延材では酸洗という方法もあります。冷延材はすでに黒皮がありませんので、そのままで使えます。黒皮のまま使っても黒皮の部分はさび化が遅れるだけで、鋼材の腐食量としては問題ないのですが、さび化する部分と黒皮部分の外観が異なってしまうので、見た目からもなるべく全体を均一にさびさせた方が好ましいと思います。
7-2.表面処理
これらを避けるために開発されたのが耐候性鋼の表面処理で、さび安定化補助処理と言います。被膜を使うということでは塗装に似ているのですが、塗料が空気、水の遮断でさびを防いでいるのに対して、この処理は被膜からわずかに空気、水が浸透し被膜下でさび化が非常にゆっくりと進展するという方法です。
被膜がさびに吸収されて完全に消失していくまで、場合によっては何十年かかることもあります。この間、生成してきたさびと残存被膜が外観上混在する期間があり、まだらに見えるため景観上問題になる場合があります。保護性さびの機能はありますので、腐食量としては問題ではないのですが、景観上許されないときは、上から被膜の簡易再生処理することも可能です。
8.耐候性鋼板を塗装する場合の考え方
耐候性鋼は、保護性のさびを生成させるため無塗装で使用するのが基本なのですが、耐候性鋼板を塗装して使う場合があります。
塗装被膜の劣化は太陽光による劣化のみならず、塗膜が傷ついたり薄くなった部分からさびが発生し、そのさびが膨らんで塗料の更なる剥離を生じていくことで、塗料が剥げた部分が大きくなって再塗装が必要になる、というパターンがあります。
ところが下地がCOR-TENだと、部分的にさびが発生してもその部分でさびの進展が遅く、塗膜に対するダメージが少ないため、さび発生の面積が広がりにくいのです。
このため、塗り替え周期が長くなるので塗り替え費用を削減でき、トータルの費用が安くなるというメリットを享受できます。
9.設計段階で抑えるべきポイント
耐候性鋼板(COR-TEN®)は、材料そのものの性能だけでなく、設計条件によって耐久性が大きく左右される鋼材です。以下設計される際は検討してください。
9-1.排水設計|水を滞留させない
耐候性鋼は乾燥と湿潤を繰り返して保護さび層をつくり、腐食の進行を抑えます。
なので、水が滞留してしまう設計、常時湿潤になる構造、水抜きのない箱形状などは腐食が進行してしまいます。水抜き穴や勾配を確保し、排水経路を明確に設計する必要があります。
9-2.塩害環境の確認|海岸沿いでは慎重に
海岸近接地域や、凍結防止剤の散布が多い地域では、塩分の影響により保護性さびが形成されにくい場合があります。環境を確認の上、無塗装ではなく、塗装仕様への変更、表面処理の併用、別鋼種の検討が必要になります。立地の事前確認をおねがいします。
9-3.初期さび、流れさび対策
安定さびが形成されるまでの期間、さび汁による周囲への付着が発生する可能性は先に述べた通りです。
外壁・石材・コンクリートとの取り合い設計では、養生や水切り設計を検討するなど配慮が必要です。
設置環境(塩害・排水・納まり)を踏まえた仕様相談も可能です。図面段階でもお気軽にご相談ください。
鋼材なんでも相談BOX | お問い合わせ | 創業1913年 鋼板・鋼材の専門商社|クマガイ特殊鋼株式会社
10.耐候性鋼板の価格の考え方|ライフサイクルで判断
耐候性鋼板(COR-TEN®)は、一般構造用鋼材と比較すると材料単価は高くなります。しかし、この材料は単純な材料単価比較では適切な判断ができません。
10-1.塗装費用との比較
一般鋼材では腐食の対策として塗装するケースがあります。その場合、下地処理、塗装施工、定期的な再塗装メンテナンスが必要となります。耐候性鋼板は無塗装でも使用いただけます。初期塗装費用および将来的な再塗装費用を削減できる可能性があります。
10-2.メンテナンス周期の延長
塗装した鋼材では、塗膜劣化が腐食の起点になります。よって定期的な塗装メンテナンスが必要です。
耐候性鋼板では部分的にさびが発生しても進行が抑制されるため、補修頻度が低減されるケースがあります。昨今の人手不足(労務費上昇)に課題がある中で、メンテナンス周期の延長によるコストメリットは年々大きくなっています。
10-3.長期的視野と経年美でのコスト評価
公共構造物や大規模建築物では10年単位、20年単位での維持管理コストが重要になります。耐候性鋼板は長期ライフサイクルで評価されるべき鋼材です。
また、ライフサイクルコストでの合理性だけでなく、経年変化からくる外観価値や環境負荷低減が図れる鋼材としても評価される鋼材です。
用途条件に応じた価格・仕様のご相談も承っております。
11.よくある質問(FAQ)
Q1:塩害地域でも使用できますか?
A:立地により使用には塗装や表面処理を施すなどの検討が必要です。詳しくはご相談ください。
Q2:何年で安定さびになりますか?
A:環境によりますが、数か月から数年の期間が必要です。
Q3:さび汁は止まりますか?
A:安定さびの期間になれば大幅に減少します。
耐候性鋼板 COR-TEN®︎ いかがでしたでしょうか。
耐候性鋼板の材料そのものの機能を活かしていただくために、設計条件が重要です。用途・設置環境・排水設計などを踏まえた仕様確認をご希望の場合は、専門商社として実務目線でご相談を承ります。
次回vol.2では耐候性鋼のメリット、規格や化学成分、溶接などの加工時の注意点について解説いたします。
YouTubeでも本記事の内容を解説しております。
COR-TEN®︎ 活用事例をブログで紹介しています。
鋼材や加工についてお悩みがあれば
お気軽にお問い合わせください
CONTACT.01
お見積り依頼
定尺や切板のお見積りはもちろんお手持ちのCAD図面や資料を元にお見積もりも可能です。
CONTACT.02
鋼材なんでも相談BOX
メール・電話・Web会議で、
特殊鋼や加工のことにお応えします。
FAQ
よくあるご質問
過去にいただいた様々なお問い合わせやよくあるご質問を掲載しています。



