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SM400 SM490などなど 鋼材 規格の選定 ~低温環境でどの規格を選定するか?使用ガイド~

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SM400 SM490などなど 鋼材 規格の選定 ~低温環境でどの規格を選定するか?使用ガイド~

〜低温環境下ではどんなことを気を付けて鋼材を選べばよいのか??~

以下の目次に従って、低温靭性・材料選定・用途別ポイントを徹底解説していきます。

執筆・監修者

熊谷憧一郎(くまがい しょういちろう)
クマガイ特殊鋼株式会社 代表取締役社長。1977年生まれ、愛知県出身、成蹊大学経済学部卒業。2000年に大手総合商社へ入社し、ステンレス鋼材の販売に4年間従事。その後、現在の会社に入社し営業・加工技術の実務経験を積み、2013年より現職。特殊鋼販売技師の資格を有し、特殊鋼材の販売・加工に一貫して携わるプロフェッショナル。また会社代表として特殊鋼販売技師や加工技師などのプロ社員集団を束ねる。

1.低温環境で鋼材に起こる問題とは

前回から、色々な状況に対し、どんな鋼材を選んだらいいかについて書いています。

前回は、温度が上がる場合の鋼材選定について書きましたが、今回は温度が下がる場合の鋼材選定についてです。温度が下がると、鋼材にはどのような影響があるでしょうか。低温環境で最も重要になるのが「靭性(じんせい)」です。温度が上がる場合は一般に粘り強くなりますので、靭性はそれほど問題にならない場合も多いのですが、温度が下がると鋼材は粘り強さを失い、急激な破壊につながる脆性破壊が起こりやすくなります。

一方、高温で問題になった強度は低温で上昇するため、強度不足が問題になるケースはありません。

また、高温で生じる鋼材自体の組織変化(性能変化)も、特殊な例外(残留オーステナイトのマルテンサイト変態)を除いて、温度を下げても起こりません。

2.低温靭性とは何か

靭性は鋼材の粘り強さと言ってもよく、靭性が低いと割れやすく、破壊の原因になります。

鋼材の靭性は、一般にシャルピー衝撃試験で評価されます。

これは鋼材から採取した試験片にノッチを入れておいてハンマーでたたいて割れやすさを評価するイメージです。

図1は、この試験結果のイメージ図で、遷移曲線といいます。一般的には各温度(例えば20℃ピッチ)で各3本試験した平均値で近似します。横軸は試験温度です。鋼材の試験片をこの温度に冷やしておいて、ハンマーでたたいてどれくらいのエネルギーが破壊に必要だったかを縦軸に記載したものです。数値が小さい程、簡単に割れたということです。

試験温度を下げていくと、ある温度を境に吸収エネルギーが急激に低下します。この温度域を「遷移温度」と呼び、低温での破壊リスク判断に重要です。図1の例では-30℃前後になります。この付近では個々の試験値のばらつきも大きくなります。

図1 鋼材の遷移曲線イメージ

3.温度帯別:どの鋼材を使うべきか

用途や環境温度に応じて、必要な靭性レベルが異なります。下記にそれぞれ示します。

3-1. 常温〜軽度の低温環境(0℃付近)

一般の溶接構造用圧延鋼材では下記のような靭性が要求されます。

  • SM400B/SM490B:0℃で27J
  • SM400C/SM490C:0℃で47J
  • SM570:−5℃で47J

これらの数値は、過去の破壊事例、試験データから、これ以上あれば破壊しないと経験値的に決められたものです。(中途半端な数値ですが、これは英米の旧単位の20 ft·lb、35 ft·lbを換算したためです。)

強度の高いSM570の方がより高い靭性を求められていることになります。高強度材ほど、低温で使っていいという意味ではなく、高強度鋼は設計応力も高くなり、鋼材に加わる応力が高くなるとともに、脆性破壊しやすいため、安全側で評価しておくということです。

一般鋼材は靭性に余裕があるため、多少の低温でも問題ないケースが多いです。

3-2. 寒冷地・冷凍倉庫(−20℃〜−40℃)

  • 北海道などの寒冷地では−20℃以下を想定
  • 冷凍倉庫では−25℃〜−40℃が一般的

北海道のように-20℃を下回るような場合や冷凍倉庫などでは、最低使用温度を考慮して靭性を決定する必要があります。もともとの規定温度(0℃等)より低い温度(-25℃等)での試験を指定することもできます。日本製鉄では、建築用低温靭性保証鋼としてNSLT®という名前で販売もしています。

後で述べるように溶接接手部の靭性も忘れないように考慮しないといけません。もともと母材に比べると、継手靭性は余裕が少ないためです。

3-3. 造船材(−20℃〜−60℃)

船級協会規格によりグレードごとに温度区分が設定されます。

  • 0℃、−20℃、−40℃、−60℃など

造船材では、グレードによって要求される試験温度が異なってきます。これは、航海を想定する環境温度(設計温度)による他、実際にその部材が接する温度、加わる応力、脆性破壊防止の重要性などで使い分けられます。海中の温度は0℃を大幅に下回ることはありませんが、上部は航海域の温度に影響を受けます。

極寒冷地航路では特に靭性とアレスト性が重視されます。 低温靭性と溶接性を確保するために、TMCP鋼と呼ばれる圧延後の加速冷却を活用した鋼材の使用がメインになります

3-4. 液化ガス・極低温用途(−40℃〜−253℃)

ガス種により液化温度が異なります。

•            アンモニア:−33℃

•            プロパン:−42℃

•            LNG(天然ガス):−162℃

•            酸素:−183℃

•            液体水素:−253℃

圧力容器では、前回の高温用鋼に対し、低温用鋼も設定されています。これは、内容物に液化ガスを含有する場合、液体温度が低温になるためです。上記のように、ガス種により1気圧での液化温度はいろいろです。(ただし、圧力を上げればこれらの温度よりも高くなります。)

温度域により、JIS G3126 SLA鋼、JIS G3127 ニッケル鋼(SL@N鋼)、特にLNGタンクには9%Ni鋼が使われます。ニッケルは鋼材の靱性を向上させるのに有用な元素であるため、添加量が規制されています。

最近重要性が増している液体水素は、オーステナイト系ステンレス鋼のSUS304L、SUS316Lなどが使われます。

これらを一覧表にまとめると、表1のようになります。

表1 各種ガス種の液化温度と低温用鋼の使用温度

4. 低温環境での溶接部の注意点

低温破壊は溶接部から起こりやすいため、母材以上に注意が必要です。

•          HAZ(熱影響部)は靭性が低下しやすい

•          溶接部は応力集中が起こりやすい

•          溶接欠陥・疲労亀裂が破壊起点になる

•          低温用溶接材料の選定が必須

構造物の破壊を考える場合、低温破壊は溶接部から起こりやすいため、母材以上に注意が必要です。一般的に溶接熱影響部(特に境界近傍)は母材よりも靭性が低下する上、溶接部は形状的にも応力集中しやすいため、亀裂の発生起点となる可能性が高いです。溶接欠陥や疲労亀裂が存在する場合もあります。さらに、溶接部は靭性の低いところが溶接線に沿って連続しているため、破壊が連続しやすい傾向もあります。

このようなことから、母材だけでなく、溶接金属や溶接熱影響部の靭性評価は必ず実施することが重要です。いくら母材に低温靭性の良好な鋼材を使用しても、溶接部に配慮しなければ元も子もありません。

低温用途には、それに見合った溶接材料が販売されています。溶接材料の選定は、溶接方法、強度レベル、要求靭性、溶接後熱処理(PWHT)の要否、などによって多岐に渡りますので、日鉄溶接工業(株)などの溶接材料メーカーのカタログなどを参考に選定いただくか、弊社クマガイ特殊鋼㈱にご相談ください。

5. 構造物の種類別:破壊に対する考え方

構造物ごとに求められる安全性が異なります。

5-1. 一般構造物

•            脆性破壊を防ぐことが最優先

•            シャルピー試験で評価するのが一般的

一般の構造物では、全体が瞬時に破壊するような脆性破壊が起こらないことが重要であり、低温での靭性は、溶接部含めたシャルピー試験で評価するのが一般的です。

5-2. 造船

•          船体破断や沈没を防ぐため、アレスト性が重要

•          定期検査で疲労亀裂・腐食減肉を確認

造船材では、破壊によって船体破断や、沈没するような大きな破壊につながらないことが重要です。従って、シャルピー試験などにより破壊のしにくさを評価するとともに、亀裂が発生しても亀裂を止める性能(アレスト性)が重要になります。

製造時には溶接部の非破壊検査が行われますが、定期検査で腐食減肉や疲労亀裂などを発見することも重要です。

5-3. 圧力容器・LNGタンク

•          貫通割れを絶対に防ぐ必要がある

•          アレスト性・破壊靭性(CTOD、ESSO試験)が重要

•          耐圧試験・気密試験を実施

圧力容器では、内容物による破裂、爆発等の危険もあるため、貫通するような割れ自体が起こらないことが必要になります。大型のLNGタンクなどでは、タンク全体の破壊につながらないよう、発生したき裂を停止するアレスト性も重要になります。

製造時には、溶接部の非破壊検査の他、耐圧試験や気密試験が実施されます。

このように、造船や圧力容器などの分野では大きな事故につながるため、亀裂があっても進展しない抵抗をあらわす破壊靭性も重要になります。

破壊靭性は亀裂があってもそこから新たに進展しにくい性能(CTOD試験)や急激に進展する割れを止める性能(ESSO試験)などで評価されますが、ここでは省略します。

6. 低温での強度変化

•          温度低下で強度は上昇(−196℃で室温比40%増も)

•          伸びは低下するが、脆性破壊の方が支配的

•          設計上は安全側になることが多い

温度が上がると強度が低下するのと同じ傾向で、温度が低下すると強度は上昇します。液体窒素温度の-196℃まで下がると、室温強度の40%以上上昇することもあります。ただし、室温の強度を前提に設計していれば、低温では安全側になるのであまり問題になることはありません。また、低温になると強度が上昇する代わりに、伸びが小さくなるという現象もありますが、低温では延性的な破壊よりも、塑性変形を伴わない脆性的な破壊の方が重要であるため伸びよりもこれまで書いてきた靭性が重視されます。

7. 低温での熱収縮

•            温度低下で収縮が起こる

•            9%Ni鋼はSUS304/316より収縮が小さい

•            材料間の熱膨張差が大きいと応力集中が発生

•            拘束を小さくし、自由に伸縮できる構造が望ましい

温度が上昇すると熱膨張するのと同じように、温度が下がると収縮が起こります。低温では常温より線膨張係数は小さくなる傾向ですが、下がり方は鋼種によって異なります。

9%Ni鋼とSUS304やSUS316を比較するといずれの温度でも9%Ni鋼の方が小さい数値を示し、収縮量は小さくなります。

また9%Ni鋼単独では、常温から-196℃まで線膨張係数が大きくは下がらない傾向があり、溶接材料も類似な傾向であることから、均一に縮むため温度低下による変形や応力集中が少なく破壊に対して有利になります。

-196℃より低くなってくると、どの鋼種も線膨張係数は非常に小さくなり、差を議論することはあまり意味がなくなってきます。

いろいろな材料を混在させる場合、熱膨張係数の違いによる変形も考慮する必要があります。常温から低温への繰り返しが多い場合、疲労についても配慮が必要です。

いずれにせよ、熱収縮の影響を小さくするためには、拘束を小さくして、ある程度自由に伸縮できる構造が有効です。

8. 低温環境での鋼材選定は専門家へ

低温用途の鋼材選定は、下記を総合的に判断する必要があります。

•            使用温度

•            応力条件

•            溶接方法

•            材料規格

•            安全性要求

今回は、温度が低い環境で使用される鋼材について、書いてきました。

コラムだけでは鋼材選定は難しいと思います。私どもクマガイ特殊鋼㈱は創業110年以上もの間、鋼材、特に特殊鋼に向きあってきた専門商社です。専門家としてお客様の要望に応える鋼材をご提案いたします。

鋼材選定で課題を感じておられれば、是非一度クマガイ特殊鋼㈱までご相談ください!!

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